望遠鏡をのぞくように、新たな社会を調査したい:まるいらぼ、はじまりのことば
まるいらぼ編集長・齋藤珠恵による「はじまりのことば」をお届けします。
「関係のエコロジー」をテーマにした、まるいらぼのイメージビジュアル
本日7月7日から、関係のエコロジーを考えるリサーチメディア「まるいらぼ」がスタートします。
丸井グループと黒鳥社によって、どのようにメディアが生まれ、これからどう活動していくのか、まるいらぼ編集長・齋藤珠恵によるメッセージをお送りします。
text by Tamae Saito(OIOI Lab Editor in Chief)
illustration by Momoe Narazaki
皆さんは丸井という会社にどのようなイメージをお持ちでしょうか。
ある方にとっては「OIOI」という看板の、百貨店やデパートのような商業施設かもしれません。エポスカードを持っている方は、日ごろの買い物で接点がある会社かもしれません。そもそも、西日本にお住まいの方にはあまりなじみがない名前かもしれません。
丸井グループの出発点は、1931年、創業者である青井忠治が東京・中野で家具の「月賦販売」を始めたことにあります。月賦販売とは、現在の分割払いのもとになった仕組みです。当時高額だった家具を、若い人にも手が届くようにしたいという想いから、丸井は月賦という仕組みを導入したといわれています。
時代の変化の中で、1960年の日本初のクレジットカード発行、バブル崩壊後のビジネスモデルの転換、スタートアップとの共創へと、ビジネスの形を変えながらも、丸井は単にお金を融通するのではなく、モノを介してお客さまの生活を後押しするというあり方を大切にしてきました。小売と金融という二つの側面を持つ私たちが、長い間向き合ってきたのは、人とお金とモノ・場所・仕組みといったものの、複雑な関係の絡まり合いだったのかもしれません。
戦時中に休業していた丸井が、1947年に中野で事業を再開したころの様子
調査部という「変わった組織」
そんな丸井グループには「調査部」という組織があります。私を含めて2名だけの小さな部署です。会社の仲間からは、「調査部っていったい何をしてるの?」と聞かれたり、「いつもだいたい会社にいないよね」と言われたりするので、ちょっと変わった部門なのかもしれません。
ほとんどの企業がそうだと思うのですが、会社員の多くは「緊急度も重要度も高い」領域の仕事を担うことになります。それは丸井グループでも同様です。
一方で、私の所属する調査部は「緊急度は高くないが、重要度が高い」領域をカバーする仕事を行っています。現在の部のミッションは、「中長期的な世の中の価値観やテクノロジーの変化をとらえ、オープンイノベーションを通じた利益とインパクトの両立に向けた情報収集・分析・提言を行う」というもの。立ち上げから現在まで、10年間調査部に在籍している私なりに解釈すると、「未来を考えるための情報収集で、可能性に着目した面白いこと探し」というところでしょうか。
具体的に扱ってきたテーマは、小売や金融など丸井グループの事業領域に加え、Web3やAIなどのテクノロジー、サステナビリティやフィンテックのグローバル動向、IP・コンテンツ領域、そして企業文化や働き方など。これらの情報収集を通じて仮説を立て、自分たちのビジネスにとってのチャンスとリスクの両面を検討してきました。
と、大層なことを言ってきましたが、すばらしく立派なレポートを作成し、蓄積しているというわけではありません。私たちがやっているのは、会いたい人に会いに行き、気になることは実際に自分で体験しながら調べる、そんな地道な調査です。外に出て、一次情報に触れ、まだことばになっていない感覚を持ち帰ってくる。その積み重ねが、また次の問いと仮説を生み出していくというのが私たちの実感です。
会社目線から離れるからこそ見えるもの
最近の調査部の大きなテーマの一つが「『好き』が駆動する経済」という、丸井グループが創業100周年の2031年に向けて掲げている経営ビジョンです。
この「『好き』が駆動する経済」とは、近年の私たちの生活に深く根づいてきた価格と機能のコストパフォーマンスを突き詰める経済とは異なる、一人ひとりの「好き」という価値観や感情を原動力とする経済圏です。それは例えば、ファンダムエコノミーと呼ばれる、ファンたちの自主的な活動によって、クリエイターたちの新しい価値が生まれていく経済のあり方も含まれます。そこでは、お金は単に「何とでも交換できる透明な道具」ではなく、誰に、なぜ渡すのかによってさまざまな意味を生み出すものになっています。
こうした事例を考えてみると、現在の私たちは、どうやら経済合理性だけでは説明ができない何かによって行動しているように感じるのです。いわゆる「資本主義」ということばにはおさまらない、新しい経済を考えていくための仮説を、丸井グループという枠組みから少し離れて、より広く、豊かに考えてみたい。そんな考えから、「まるいらぼ」の構想は始まりました。
丸井グループが創業から一貫して大切にしてきた想いをひも解き、「『好き』が駆動する経済」へのロードマップをまとめた冊子「丸井のたいせつ」(2025年)。編集は黒鳥社が担当しています
photograph by Hironori Kim
まるいらぼのキーワード:「関係」と「交換」
まるいらぼは、「関係のエコロジーを考えるリサーチメディア」としてスタートします。経済や消費といったものを、別の視点から考えるためのキーワードとして、私たちは「関係」と「交換」という二つのことばに注目しています。
例えば、自分の買い物よりも、友達や同僚へのプレゼントをあれこれと考えるときのほうが楽しい気持ちになることは、皆さんもあるのではないでしょうか。相手との関係によって、何かを交換したりプレゼントしたりすることの意味は、大きく変わります。現在の私たちの日常の中にも、実はこのような、人と人、人とモノ、人と場所といった関係によって変化する、交換の形があるはずです。
まるいらぼは、こうした視点から、人・モノ・自然・制度といった複雑な関係の生態系をひも解き、私たちが当たり前としてきた経済や社会のあり方をとらえ直してみたいと考えています。
私たちにとって、まるいらぼはまったく新しいプロジェクトでありながら、調査部の活動の延長線上にもあります。これまで調査部は、リサーチから生まれた仮説を社内にアウトプットし続けてきました。まるいらぼは、そのアウトプットを社外にも開いていく試みです。
丸井のビジネスにとっての仮説を検証するという枠組みだけでは、どうしても見落としてしまうものがあります。そこに、まだ出会っていない誰かの目線が加わることで、問いの輪郭がより明確になっていくのではないか。そんな期待をしています。
あえて遠回りから
こうした自分たちの営みを、私たちは「丸井の望遠鏡」と呼んでみたいと思います。遠くの対象を拡大して見るだけでなく、何を見るのかを選び、方向を定め、焦点を合わせ続ける。時には遠くを見渡す望遠鏡として、またある時には身近な出来事を丁寧に観察する虫眼鏡として、「関係のエコロジー」をひも解き、経済や社会について考えていきたいのです。
レンズの先に見えるのは、必ずしも明確な答えではないのかもしれません。すぐに役に立つものばかりではないかもしれませんし、遠回りに見えることも多いと思います。それでも、そうした寄り道の中でしか見えてこないものがあると、私は調査部の10年間で実感してきました。
まるいらぼでは、こうした私たちの姿勢に、黒鳥社の「編集」という技がかけ算されます。まるいらぼの関心が、企業の関心を超え、誰かの関心と重なり、さまざまな立場の人と一緒に考えられる「共通の問い」のようなものが見えてくる。輪郭が曖昧だったものに、少しずつ手触り感が生まれ、みんなが取り扱える「ことば」としてかたちになっていく。編集の力がもたらすその可能性に、私自身がとてもわくわくしています。
まるいらぼの探究が、誰かの視点を増やすきっかけとなることで、結果として社会の見え方が少しだけ変わっていく。いろんな立場の人たちと「問い」や「関心ごと」を媒介にしてゆるやかにつながっていく。そのような場に、この「まるいらぼ」を育てていきたいと考えています。
これまでお世話になってきた人も、新しく出会ってくださった人も。
まるいらぼとの関係を始めていただけたら、とてもうれしく思います。
次週7月16日は、エンタメ社会学者中山淳雄さんの連載「みんなのホビー革命」の特別編として、中山さんのインタビュー記事を配信します。連載テーマであるホビーと、現在のコンテンツビジネスの状況について取材しました。お楽しみに。





